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  • 2010.06.17 Thursday
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夏の日の陽だまり  傭兵騎士団長と向日葵の少女


 ***


変わり映えのない日常生活において、トラブルという名の騒動を起こすのは、大体「ガキんちょども」と相場が決まっている。

子供は好奇心を満たす為の欲望というもので8割構成されている。残りの二割は寝ることと母ちゃんのつくる晩飯を想う事くらいのものだ。そしてその子供たちが一人ではなく二人。つまり個から多になったら、もう手がつけられない。

子供たちは本能的に知っているのだ。
この世の摩訶不思議をかぎつける術を。
それは、誰もが必ず持っていて、でも大人になるにつれて失っていくもの。
魔法でも知識でもない、子供の純粋さだけが備えることができる、すばらしい能力。


今日も子供たちは往く。

鍋の蓋の盾をかざし、粉引き棒を誇らしげに振りかざして。

それは向日葵が大輪の花を咲かせる、暑い夏の日のお話。


***


耳を劈くのは喧騒。

だがそれは熱気溢れる喧騒だった。
安売りを詠う果実売りの野太い声、肉屋の旦那の気風の良い客引きに、蜜のよう甘く、艶っぽい娼婦の声。

南サンドリアの猟犬横丁は平和の香りに満ち満ちていた。
国家の繁栄は国民の顔に如実に表れる。
ここ、サンドリア王国はまさに平和の只中にあり、街を行く人々の顔はみな一様に明るかった。
清貧を旨とする古風な騎士王国も、中央市場となれば活気溢れ、人々は熱っぽく動き回る。
市場を監督している神殿騎士たちですらうっすらと微笑みをたたえ、腰に帯びた剣は鞘から抜かれることはここのところついぞご無沙汰である。
八百屋の恰幅の良い女将にサルタオレンジとともに見合い話を持ちかけられた警備兵が慌てふためき、雑踏の中にまた爆笑を一つ呼んでいた。

「ヴァレリアさま、次はあっち、あっちですよー。ほら、あのチェック柄のテントのお店!」

そんな雑踏の中、よく澄んだ少女の声が響く。
行き交う人々のなか、赤いコーサー種のチョコボがぽっくりぽっくりと歩いていた。
その鞍には大はしゃぎで向日葵のように笑うエルヴァーンの少女と、その少女を膝の上に抱きかかえて、少し困ったような顔をしながら、しかし小さな微笑みを浮かべたミスラの騎士がまたがっていた。

「はいはい、わかった、わかったから。あんまり暴れるな。落ちちゃうぞ?ジルダリア。」

ジルダリアの美しい黒髪をふわりとなでると、ヴァレリアはチョコボの手綱を少しだけ引いた。コーサー種特有の美しい緋色の羽を身にまとったチョコボは「あのチェックのテントのお店」に向けてくちばしを向ける。

「わーい! にへへ、ヴァレリアさま、すきー。」

にぱーっと笑うと、ジルダリアはヴァレリアの胸にぎゅーっと顔をうずめて抱きつく。
あまりの勢いに後ろに倒れそうになりながらヴァレリアは笑った。手綱を握ってないほうの手でジルダリアの体をしっかりと抱きしめた。チョコボのやわらかい羽毛が一枚、抜けて風に舞っていった。

「今日は君が私の主様だからね。さぁ、好きなものを買っておいで。ドレスでも帽子でもなんでもいいよ!」

軽やかにチョコボから降りると、小さなジルダリアの体をやさしく抱き上げて地面に下ろす。
足が地面につくのが待ち遠しくてたまらないといったふうにパタパタと足を振っていたジルダリアは、跳ねるように店の中に駆け込んでいった。
ヴァレリアが手近なところの街路樹にチョコボの手綱を結びつけている間に、ジルダリアは小さなテントの店を端から端まですべて見て回るつもりのように歩き回った。

ちょうど良い枝に手綱を結び終え、振り返る。店の中をきらきらと目を輝かせて物色しているジルダリアをみて、ヴァレリアは改めて、穏やかな、そして優しい微笑みを浮かべた。

***

それは今朝のこと。


朔夜の摘んできた新鮮な山菜をおかずに、朔夜、ヒューレン、ヤチルル、つまりフリューベル家で朝食をご馳走になっていた時である。比較的寒いサンドリア地方だけあり、真夏といえど朝は涼しい。
夜遅くまでヴェルとハーディンとカード遊びに興じていたヴァレリアは、家でウィルム族のような顔をして待っているであろう女中長のことを恐れ、帰れずに朝食を食いっぱぐれ、結局ヒューレンの家に押しかけたのである。


「・・・おいしい。」

ぱくりとボスディン菜のソテーを口に放り込んだヤチルルが起伏のない声で呟く。それを聞いた朔夜がにこにこと笑いながら山菜のキッシュを皿に盛り付けていた。
一方でヴァレリアは目を皿のようにしてヤチルルの食事を見つめていた。
ヤチルルはすでに空にした皿を山のように積み上げている。しかし朔夜が皿に山盛りに盛り付けたキッシュはヤチルルの前に差し出されていた。

「朝・・・は・・・一日の源。・・・食べない・・・は・・・駄目。」

ぺろりとキッシュを食べ終えると、ヤチルルはベーグドポトトにも手を出し、平らげていった。
彼女の旺盛な食欲に絶句しているヴァレリアを眺めていたヒューレンは口をほころばせる。
そうしている間にも食卓には続々と料理が運ばれてきた。
香ばしい匂いを放つそれらは空腹であれば思わず蕩けてしまいそうなほどに刺激的な匂いだったが、あいにくヴァレリアの腹はそれほど飢えを訴えていたわけではなく、山のように積み上げられていくその料理の数々に言葉を失うしかなかった。

「あの小さい体のどこにはいってるのやら。」

次々と片付けられていく皿をみてヴァレリアは呟く。
ベーグドポポトにグリーンキッシュ、黒ウサギのグリル、そしてヒカリマスのソテー。
クォン大陸の山の幸をふんだんに使って作られた料理は朔夜が山に分け入って採ってきた食材たちである。ヒューレン爺がやったのといえば最近始めた趣味のフライフィッシングで釣ったヒカリマスくらいのものだろう。

自分の席にちょこんと腰掛けたヤチルルがフォークとナイフを置いたのは綺麗に食べつくした皿の山が高々と積み上げられた頃だった。
ぼそぼそと消え入るような声で「ごちそうさま」と呟くと、ヤチルルは尖がり帽子をゆらゆら揺らしながらトコトコと食堂を歩いていった。その姿を見送ってから、朔夜は器用に皿の山を持って洗い場に運んでいく。

「さぁて、ワシもそろそろ行かねばのー。」

パイプ煙草を美味そうに一息吹くと、ヒューレンは立ち上がった。コーヒーを入れようとした朔夜にひらひらと手を振って断ると、シルクの法衣を身にまとう。

「今日はサイフォスのところの娘がワシんとこのクラスの試験を受けにくるんじゃよ。ヴァレ公、暇なら来んか。なかなか見ものじゃぞ。向日葵みたいに笑う子で・・・」

「ジルダリアでしょ。知ってるわよ。」

億劫そうに机に突っ伏したヴァレリアにヒューレンは小さくため息をついた。

その時である。

『ヴァレリアさまー! お迎えにきてくーださーい!やくそく、やくそく〜!』


ヴァレリアのとんがり耳に取り付けた改造型リンクシェル、リンクピアスから澄んだ声が響いた。

「・・・ほらね。話題のジルぴーからの呼び出しさね。今日は私ゃあのガキんちょのお守りなのだわ。はぁ・・・。」

寝不足ぎみの目をこすり、背伸びをしてふらりふらりと歩いていくヴァレリアの背中に、こっそりとヒューレンは微笑んで見せた。もちろん、彼女がそれに気づくことはなかったが。

***


「行ってきまーす!」

面倒くさそうにしているヴァレリアのもとに、ジルダリアは跳ねるように駆けていった。ぴょんとジャンプしてヴァレリアの首に抱きつき、そのまま背中に回っておんぶしてもらう。
普段から大口径のマスケット銃を背負っているヴァレリアにとって、ジルダリア程度の重さなら小鳥が肩にとまったようなものだ。

「ジルダリアー!」

南サンドリア住民街の一角にあるオウギュスト家の主、サイフォスが二階のテラスからジルダリアを呼び止める。心なし嬉しそうだ。

「無駄づかいするなよ、面倒かけるなよ。団長、娘をよろしくお願いします!」

「はーい。」

にこやかに返事するジルダリアをよそに、ヴァレリアは手だけを振って見せた。
しっかりと首にだきついているジルダリアを担ぎなおすと、そのまま赤チョコボに跨ってみせる。
一度チョコボに乗ればヴァレリアは勇壮なサンドリア騎鳥騎士である。その胸に抱かれてチョコボに乗るということはサンドリアの子供たちにとって憧れであった。

南サンドリアの住宅街を抜け、モグハウスゲートを抜けるとそこは庶民街である。
ドラギーユ家の治める国王のお膝元であるこの南サンドリアの交易街はサンドリアの中でも郡を抜いてにぎわっていた。普段見慣れないチョコボの位置から見下ろす町並みが珍しいのか、ジルダリアは興味深そうに人並みを見渡していた。

ヴァレリアの格好は半そでのダブレットに紫の東方下衣を履いていた。最初、王国軍の鎖帷子と装甲外套を身にまとって出掛けようとしたのを朔夜が慌てて着替えさせたのだ。普段はもっぱら緋色の服装が多いヴァレリアにとっては新鮮であり、なんとなく気恥ずかしい想いでもあったが、行き交う人々の視線のやわらかさに、徐々に着替えをさせた朔夜に感謝するようになっていた。

「ヴァレリアさま、あれは何?」


突然袖を引っ張られて、ヴァレリアはジルダリアは膝の上のジルダリアに視線を落とした。
派手な装飾を施した小さな屋台を指差してジルダリアがたずねる。

「おや、珍しいねぇ。あれは近東の菓子屋さ。シュトラッチとかね。おいしいわよ。」

「シュトラッチ? 変なのー。おいしい?」

「うん。とっても。食べたい?」

その目が好奇心の色に染まるのをヴァレリアは見逃さなかった。

「ちょっと待ってな。フローラ、ジルぴーをみとくんだよ。」

クエっと鳴く愛鳥の頭をなでると、ヴァレリアはそう言い残してチョコボから飛び降りた。手綱を握ったまま屋台のほうに近づいていく。ケースに陳列されたケーキの中からとびきり美味しそうなのを選んで注文する。

「はい。月の船の旅、二つで4000ギルね。騎士様。」

ひげ面の近東風の店員が営業スマイルを浮かべていった。ヴァレリアは耳をぴんとたてて猛然と首を振る。

「高すぎねぇ。1200ギルにしな」

「ちょ、ちょっと、騎士様。それじゃショバ代にもなりゃしませんぜ。」

今度は店員が首を振った。ヴァレリアはため息をついて澄ました顔で応える。

「あ、そ。じゃあそれいらないよ。注文取消し。またね。」

「あ、あ、ちょっとお待ちください、騎士様。・・・まいったな。3200ギルでどうだい。」

「2000.それ以上は出せないねぇ。」

ヴァレリアは短くいった。店員が睨むが彼女は目を逸らそうともしない。
しばらくして店員が観念したように目を伏せた。

「えーい、ちくしょう。2500だ。それ以上はまけられませんや!」

「いいわよ、その代わりトッピングをサービスしてもらおうかい」

ヴァレリアが満面の笑みを浮かべて言う。店員が苦渋に満ちた表情を浮かべ、二人分のシュトラッチのHQを皿にのせてヴァレリアに渡した。

「ほら、食べな。」

「ヴァ、ヴァレリアさま、ひどい・・・。あの店員さん泣いてたよ・・・。」

ヴァレリアからシュトラッチの乗った小皿を受け取りながらジルダリアが囁く様に言った。

「何いってんだい、マツカゼさんはもっと凄いんだから。一桁の単位で値切るのよ。」

「で、でもぉ・・・。」

悪戯をした猫のようにしゅんとしているジルダリアに、ヴァレリアは一すくいシュトラッチをスプーンにとると、ジルダリアの口の先に近づけた。

「ま、いいから。ほら、食べな? 甘くて凄く美味しいんだから。」

ジルダリアは渋々、口の中にシュトラッチをほおばった。
途端に甘くて柔らかく、とろけるように広がるシュトラッチの味にジルダリアは驚愕した。

「・・・・・こんなの、たべたことない。おいしい!」

「だろう? 私もはじめて食べた日の夜は夢にでてきたんだから。」

夢中でシュトラッチにむしゃぶりつくジルダリアに、ヴァレリアはそっと彼女の皿の上に自分のシュトラッチの半分をおいた。思わず緩んでいた自分の頬に気付くこともなく。


「私、大きくなったら冒険者になろうかな。」

「はっはっは、いいねぇ。そしたら一緒にアトルガンまで連れて行ってあげようか。」

大きくうなずくジルダリアの髪をふわりとなでながら、ヴァレリアは寝不足気味だったことも忘れて南サンドリアの市場へとチョコボを向かわせた。




それは夏の日の陽だまりのなかの夢。
向日葵が大輪の花を咲かせていた頃のお話。

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