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  • 2010.06.17 Thursday
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せめて冒険者らしくIII



 ***

サーラメーヤとじょにー団編そのIII ですよーん。

本編は続きを読む のほうからお楽しみくださいな

ことにゃん可愛すぎ修正されるね><
 
***

「勇気は我が剣 我が強き盾
苦しめるときの 近き助けぞ
おのが力 おのが知恵を 頼みとせる
陰府の長も 恐るるべき

いかに強くとも いかでか頼まん
やがては朽つべき 人の勇気を
われと共に 戦いたもう アルタナにこそ
万軍の主なる あまつ女神

暗きちからの よし防ぐとも
主のみことばこそ 進みにすすめ
わが命もわがたからも とらばとりね
女神の神兵は なお我にあり」





 キタラアングリカを爪弾くジョニーが魔法の込められた歌詞を口ずさむ。

 その一言一句が。奏でられる音の一つ一つが。吟遊詩人の兵士であり、軍隊である。
旋律は大気を伝わって仲間達を癒し、または鼓舞し、心の隅々に染み入ってゆく。ジョニーは炎揺らめく火山の地で、歌詞という名の兵を率い、演奏という名の大軍団を指揮していた。

 サーラメーヤが振り上げた前脚を正面に立っていたナイトに向けて叩きつける。鈍い音と共に地面に足が半分埋もれ、盾は軽くひしゃげていた。

「うらァアアア!」

 腹の底から雄たけびをあげて、ヴァレリアは盾を押し返す。ジョニーの呪歌で沸き立った血が彼女の腕力を桁外れに高めている。自分の何倍もの大きさのサーラメーヤの一撃を受けて、さらに押し返すなど、吟遊詩人の支援無しにはあり得ない事だった。 
 衝撃に堪えきれずに悲鳴を上げる両足にケアルを唱え、ジュワユースのナックルガードでサーラメーヤの顔面を殴りつける。剣を突き立てるにはサーラメーヤの皮膚は硬すぎるのだ。

 モーターワークスとダイハードが側面に回り込んでいる。それを横目に見ながら、ヴァレリアはフラッシュを唱えながら続けざまに盾とナックルガードで殴りつける。正面から対峙しているのに、それほど恐怖を感じないのは、戦場に響くマーチの歌のおかげだろうか。3つの首が一斉に噛み付いてきても、ヘイストの掛かっている自分には当たる気がしない。

「そうだ、私に向かって来い!」

 自分に向けられた強烈な怒気に負けじと怒鳴り返しながら、ヴァレリアは盾をかざした。

 凄まじい重量をそれ以上の筋力で動かす。赤黒い巨体がのしかかる様にして迫ってくる。両腕で盾の取っ手を握り締め、衝撃に備える。この一撃を耐えるのがナイトの仕事なのだ。刹那の瞬間を置いて、骨がきしむような衝撃が襲う。生きた心地がしない。それでも、その痛みはすぐに和らいだ。
ヴァレリアが自前で唱えるケアルの何倍も効果のあるケアル犬鬟灰肇が唱えてくれるからだ。

「美しくないな。うん、実に美しくない・・・。」

そのやり取りの間、バリズは冷静に魔法の詠唱を終え、片手に握り締めたジュピタースタッフを優雅に振りかざす。

「ヴァレリア、尻尾にバースト警報。本日のゼオルム火山の天気はブリザドときどきバーストII、だ。」

 猛烈な悪寒を感じたヴァレリアが横っとびに飛んだ。彼女がいた辺りに向けて極太の雷の柱がほとばしる。少しの迷いも無く、狙い通りの位置にバリズのバーストIIが着弾した。堪えきれずにサーラメーヤが悲鳴をあげる。

「ちょ、ちょっと、バリさん! 私を殺すつもりか!」

「惜しい・・・。あ、いや、なんでもない。」

 着弾した顔面を押さえて転げまわるサーラメーヤを尻目にヴァレリアが非難した。それを涼しげに受け流して、バリズはジュピタースタッフの宝珠をつぃ・・・と指でなぞる。
しかし彼が唱えたバーストIIは雷属性の精霊魔法の中では最上位に位置する。消費する魔力は膨大であり、並みの黒魔導師なら肩で息をするほどに疲労する魔法である。それを唱えておきながら、バリズは口笛を吹く余裕すら見せていた。

 口ではとんでもない事を口走っていながら、ヴァレリアに向けて激しい攻撃を加えていたサーラメーヤの顔目掛けて正確に魔法を直撃させるあたりに熟練の力量が見え隠れしていた。
前衛であるヴァレリアと直接比較出来る物ではない。ただ、それでも彼は自分達よりずっと先をいっている冒険者なのだという実感はあった。

 硫黄の匂いでよどんだ空気ごと、のた打ち回るサーラメーヤの四肢をかいくぐりながら、首や顔をモーターワークスやダイハードが斬りつける。反対側からはエステルがサラソクレットを振るう。
 
 微妙に位置を変えながら、前衛たちはサーラメーヤを散々に攻撃し続けていた。視界をヴァレリアのフラッシュが奪い、体の自由をコトカのパライズやディアが阻害している。
 
 もしかすると、このまま危なげなく討伐が達成できるのではないかと思った次の瞬間、嫌な予感が背筋を走りぬけた。

「ヴァレリア、防御!」

 竪琴を爪弾く手をとめて、ジョニーが叫んだ。
 
 同時に盾を握り締め、地面を踏みしめる。ヴァレリアの背後にモーターワークス、ダイハードが飛び込み、エステルは地面を蹴って高く跳躍した。「あん、顔に土ついちゃう」とダイハードが呟いたのと同時に、ヴァレリアは目を強く瞑った。ランパートを発動させるためだ。
 
 ほぼ間をおかず、猛烈な熱波がヴァレリアたちに襲い掛かった。視界一面が光で覆われた。それは神々が人に注がせる柔らかい光ではなく、凶暴な炎の発する光である。火柱という火柱が連なり、それが重なり合って紅蓮の壁を形作る。それが津波のように襲い掛かってきた。

 その炎の波に飲み込まれる刹那の瞬間、ヴァレリアのランパートがその熱から身を守る。盾のイメージを強く念じ、魔法からパーティを守るナイトの技。しかしそれを発動させてなお、体を焼く熱はヴァレリアの精神力を削り取っていった。

「ゲーツオブハデス・・・」

 ランパートの効果が消え、盾をかざしたまま膝をつくヴァレリアを助け起こしながら、モーターワークスが呟いた。ヴァレリアの背後にいたモーターワークスとダイハードはほとんど無傷だったが、直撃を受けたヴァレリアは意識が飛び掛っていた。

「・・・っ! これ、毒だわ。モーター。ヴァレリアちゃん、毒にもやられてる!」

 糸の切れた人形のように地面に膝をついたヴァレリアを助け起こしたダイハードが悲痛な叫びをあげる。

 呼吸が細い。兜の奥の、閉じかけたヴァレリアの瞳には光が消えかかっていた。
頬に手をあてると燃える様な熱さがダイハードの手のひらに伝わってくる。
いつもしなやかに揺れる彼女の尻尾は、力なく垂れるのみだ。

「あいつの爪にやられたな、ちぃっ! 不潔なワン公だぜ。」

 モーターワークスが懐の鞄をあさる。中から毒を治癒する液体が入ったビンを取り出すとダイハードに投げてよこした。

「盾が倒れたらちょっとマズいわねぇ、この子は私が担ぐわ。モタちゃん、エステルちゃん、ちょっと時間稼いでねっ」

 それだけを叫ぶとダイハードはヴァレリアを抱き上げ、全速力で走った。毒消し薬のビンを手刀で叩き切り、胸に抱いたヴァレリアの口にあてる。飲んでくれるかどうかはわからない。けれど、飲んでもらわなければいけないのだ。
ヴァレリアの生命への足掻きを信じて、ダイハードは瀕死の仲間を抱いて走った。

「ィヤァアアァアアアア!」

 驚異的な跳躍力で空へと飛んでいたエステルが槍を握り締めてサーラメーヤに突き立てる。
サーラメーヤの注意がエステルへと向けられたあと、モーターワークスが正面から斬りかかった。
鼻先を巨大な前脚が掠めてゆく。触れただけで致命傷かもしれない。よくもまぁ、こんな攻撃を何度も受けて立っていたものだと、モーターワークスは屈強なガルカ戦士に抱かれて後退していくミスラを見やった。

「エステル、モタさん、一度逃げるわよ。 ほら、コトカ、あんたも走るっ! 置いて行くからねっ」

 ジョニーの声がひどく遠い場所から聞こえたような気がした。
街を歩けば迷子になると評判のコトカは、おろおろと周りを見回したあと、すぐ手前に着地したエステルの背中に飛び乗った。エステルももうわかっていたように、背中にしがみつくコトカを背負いなおして冷えた溶岩の地面を跳躍する。コトカ程度の体重なら小鳥が肩にとまったようなものだ。

跳躍したあと、下を見下ろせばジョニーとバリズがぐったりとしているヴァレリアを抱いて走るダイハードの後に続いている。

 最後を走っているのはやはりというか、モーターワークスだった。追いすがるサーラメーヤの攻撃をかわしながら、ついでに、といわんばかりにチクチクと返し刃をお見舞いしている。
サーラメーヤの注意を引くために、しばらくそこに残るつもりらしい。

 背中にしがみついたコトカは強く目を閉じていて、とても下なんか見ていられない、といった状態だった。やがて見る見る地面が近づいてくる。着地の衝撃に備えながら、エステルは他人事のように考えていた。

 どんな仕返しをしてやろうかしら、と。


***


 拠点に引き上げる頃には、ヴァレリアの意識もはっきりしていた。変わりに痛みが沸き起こってきたのか、苦痛に顔をしかめている。声にもならない、くぐもった声をあげているヴァレリアに、コトカが一生懸命にケアルをかけていた。

 ダイハードは拠点にこしらえたハンモックにヴァレリアを寝かせると、もう一度毒消しをヴァレリアに飲ませて様子を見た。意識がとびかかっていた時、口にあてられた毒消しをどうにか飲んでいたようで、しばらくすると表情が和らいでいった。

 そうしていると、モーターワークスが一行を追ってもどってくる。

「よかった、無事だったんだね。」

 コトカが駆け寄ると、モーターワークスはくたびれた顔で肩をすくめる。

「さすがに、仲間を逃がす為に犠牲になるなんて格好のいい真似はごめんだよ。」

「冗談が出るくらいなら大丈夫だな。」

 ウィザードクッキーをポリポリとかじっていたバリズが言うと、モーターワークスも苦笑を浮かべる。

「で、大丈夫か?」

 モーターワークスはダイハードの背後を見てそう言う。声につられて振り返ると、エステルに支えられながらヴァレリアが起きだしてくるところだった。ジョニーの口ずさむ歌を聴きながら眠ったのかと思っていたのだが、どうやら起きていたらしい。

「ごめん、ドジっちゃったみたい。」

 モーターワークスの問いにヴァレリアはそれだけを応えた。どうやら無事らしい。今はエステルに肩を支えられているが、コトカのケアルがあればすぐに立てるようになるだろう。

「でも、アレはどう対処したものでしょう。いきなり火柱が壁になって襲ってくるなんて。あんなもの、ナイトでも耐えられないわ。」

「おそらくアレがゲーツオブハデスだ。サーラメーヤ・・・というか、ケルベロス族の技だな。近くで戦っていた俺達には気づきにくかったが、ジョニーさんの警告がなかったら俺達も危なかった。」

「ゲーツオブハデス…」

 サーラメーヤの反撃があそこまで激しいものだとは思わなかった。普通の状態でも凶悪すぎる相手だというのに、あれではまたヴァレリアが倒れてしまう。

「バリズぅ、これからどうするぅ? 姫、ちょっと街までひとっぱしりいって、シムの旦那やお尻さんでもよんでこようかしらぁ・・・。もちろん、何かいい考えがあるならそっちがいいんだけどぉ。」

 くねくねしながらダイハードが言う。実際、このメンバーでは手が足りないような気もしていた。アトルガンを出る前に考えていたより、相手は手強かった。一旦街に引き返し、戦力を補充して再度挑む方が確実性は増す。その為に、彼らが組んでいる他の冒険者たちに協力を要請するのも悪くない方法だった。

 ただ、この方法はゼオルム火山とアトルガン白門を何度も行き来しなければならない為に、準備にとても時間がかかる。そうしている間にも、サーラメーヤは大なり小なりの被害を皇国に及ぼすだろう。それだけは出来れば避けたかった。

 その点、この中でもっとも経験が豊かなバリズであれば、いい考えの一つや二つ出てくるかと思ったのである。

「…一度、街に引き上げよう。」

 ところがバリズの口から出た提案も、ダイハードが考えていた最後の手段と同じだった。

「やっぱり、これは何度か足を運ばなければ無理でしょうか・・・」

 エステルが残念そうに続けた。とはいえ、直接ゲーツオブハデスを身に受けたのはヴァレリアだ。彼女の痛みを考えれば、それも仕方ないかなとも思う。それでも、目の覚めるような起死回生の策を出してくれるかと思っていた。

 どうやらそれほど甘いものではないらしい。

 そう、一行が諦めかけたところで、ミスラ風山の幸串焼きをかじっていたジョニーが励ますように笑った。

「えぇと。あのさー。断言は出来ないんだけど、確かめたいことがあるのですよ。もしワタシの直感が当たっていれば、手がかりが掴めるかも知れない。」

 まぁ、一度帰る必要はあるんだけどねー。とジョニーは付け加えた。

いずれにせよ万策尽きた状態だ。ジョニーの思い付きがどの程度のものなのかはまだわからない。それでも、何の希望もなく引き返そうとしていた一行に、ジョニーの言葉は力を与えてくれた。

「よっし! 次こそはやっつけてやるからな!」

モーターワークスはもう一度帰ってくると、強い意志を込めてサーラメーヤがどこかにいるであろうゼオルム火山に誓った。


***


 もう、夜遅くなっていた。

 こんな時間に動いている者は、歩哨任務についている皇国兵や、何かの理由で夜に出発する冒険者か、ジョニーたちの様に、たまたまこの時間に帰り着いたパーティか、飲みすぎて帰る時間を逸した酔っ払いぐらいしかいない。普通の生活をしていれば、とっくにベッドの中で夢を見ている頃だろう。

 そんな時間にもアトルガン白門の露天酒場は暖かな灯りと空腹を催す香りを漂わせて開いている。

 店内には流石に人の姿は少なく、冒険に出発する前の腹ごしらえをしているらしい6人組みの冒険者と、酔いつぶれて客席で突っ伏している大柄のガルカ傭兵、客はそんな連中しかいない。

 サーラメーヤ討伐を断念して数時間、ジョニーたち一行はようやくアトルガン白門に帰り着いたのだった。冒険者の出入国はどのような任務であったとしても皇国軍への報告と手続きをしなければならない。

 依頼の失敗に終わった冒険はこれが初めてというわけではなかったが、ゼオルム火山は遠かった。移送の幻灯を使用してきたとはいえ、あの装置の使用もタダではない。

 実際にサーラメーヤと遭遇し、情報は集まったとはいえ徒労感は否定できない。実際の疲労以上に何か重いものがずっしりと体にのしかかっているようだった。それでも、全員が無事に帰ってこれたことだけでも喜ぶべきことなのだろうが。

 幸い、サーラメーヤのゲーツオブハデスの直撃を受けたヴァレリアは、コトカの懸命な回復魔法により軽い火傷と擦り傷だけで深刻な怪我を負ってはいなかった。流石に頑丈なナイトのためにあつらえた板金鎧に守られていただけのことはある。伊達にアルタナ戦争を戦い抜いてきた王国軍の騎士ではない。 帰りはダイハードに背負われていたが、外から見た動きにどこかを庇っている様な違和感は無かった。

 ともかく、惨憺たる結果だった。

 皇国軍への手続きをモーターワークスとバリズに任せ、一行は誰もいない席に座り込んだ。気力を使い果たした。といった風だ。

「手続き、終わったぞ。」

 しばらくして、モーターワークスとバリズがもどってくる。

 流石に冒険の経験が豊かな分、二人は冷静だった。成功も失敗も、パーティの中の誰よりも乗り越えてきたのだろう。

「すみません、二人にだけ任せちゃって。」

エステルがどうにかそういうと、モーターワークスは軽く笑った。

「いいのさ。こういうときは動けるやつが動けばいい。そんなことより、だ・・・」

薄金装束の面具をはずしながら、モーターワークスは視線をバリズに移す。モリガンローブの襟もとをいじくりながら、バリズが静かに呟いた。

「二日だけ、待ってくれるそうだ。」

何度も困難な冒険をこのメンバーで乗り切ってきたのだ。それだけでバリズが何を言いたいのかわかった。

「そう、二日も待ってくれるのね。それだけあればもう一度挑戦するための準備はできるわ」

 ジョニーがメニュー表をじぃーっと見つめがら言った。隣にいたコトカが続ける。

「でも待ってもらえるの? あのおじいさん、花鳥風月の題材、頻繁にかえるじゃない」

 一つの依頼を失敗してしまえば、一旦依頼者と冒険者の交わした契約は無効になる。無論、そこから再挑戦することも可能だが、いったん無効になるということは、依頼主が他の冒険者に依頼することも出来るということである。
 
 一行は帰ってくる最中、ずっとどうやってサーラメーヤを討伐するかばかり考えていた。しかし差しあたって一番大きな問題は、再度討伐の依頼を受けることが出来るかどうかなのだ。

「なぁに、これはサラヒム・センチネルの任務でもなければ、皇国からのご公務でもない。一人の老人の趣味だ。それに、あんな凶暴なモンスターの討伐は誰にでも出来るというわけじゃぁないからな。他の冒険者やリンクシェルリーダーに公開するのを待ってもらった。」

 特別にだがな、とモーターワークスが付け加えた。おそらく、彼らに対する働きとこれまでの実績があってこその計らいなのだろう。

 いずれにせよ、今回はいいところなしで一方的に逃げ帰った形になった。このままではとても他の依頼を受ける気になれない。これは冒険者としての矜持と意地の問題だった。

「ともかく、対策の練り直しと戦力の増強だな。」

 バリズはそういいながらエステルの隣に座った。空いている席がダイハードの隣しかないのをモーターワークスは悟ると、露骨に嫌そうな顔をした。

「ごめん、悪いけど・・・私、ちょっと席を外すよ。モタさん、ここ。座っていいから。」

 そういうと、ヴァレリアが席を立った。突然に席を立った彼女の行動に視線を送る一同に、力なくヴァレリアは微笑む。

「あ、いや・・・。ちょっとね、長丁場になりそうだから。国に連絡してくるのさ。皆、忘れてると思うけど、私は王国の騎士様なのだよね。」

 緋色のリンクパールを取り出すと、ヴァレリアはそういって露天酒場のテントを出て行った。

***

 モグハウスに帰り着いたヴァレリアは乱暴に装備を脱ぎ捨てると、ベッドにどさりと腰を下ろした。
圧倒的なサーラメーヤの強さの前に手も足も出ない。

 初見であんな巨大なモンスターの相手に慣れていなかったからだと自分を納得させようとしながら帰ってきた。しかしそんなものは落ち着いて考えてみれば言い訳にもならない。
自分が倒れたことで、パーティの仲間たちを大いに不安にさせてしまった。

 正直に言ってしまえば、こんなに手強いモンスターだとは思っていなかった。また、それを求めてもいなかった。

 ヴァレリアがやりたかったのは、王国貴族の道楽だとか、傭兵騎士団の資金稼ぎだとか、そういう目で見てくる祖国の人間を見返したかっただけのことだ。

 口が裂けてもいえないが、サーラメーヤのことが怖かった。

 ジョニーが何か閃いている。打開策はあるのかもしれない。だとしても、何故だか自分がいることでムダになるような気がするのだ。こんなにも無力感に苛まれた事は無かった。戦争をしている頃はそんなことを気にしたこともなかったはずなのに。

 こんこん。

 ベッドに身を投げ、枕に顔を押し付けた時、ドアをノックする音が聞こえた。

「ヴァレっこ。いるー?」

「空いてるよ。どなた?」

 カチャリとドアの空く音と共に、トテトテと一人の可愛らしいタルタルが入ってきた。ぴょこぴょこと金色のツインテールが揺れる。コトカだった。
枕から顔を上げるヴァレリアの視線に気づいたのか、コトカはえへへと笑った。

「はい、これ。ヴァレリアの分のジュース。エステルがね、おごってくれたの。」

「ありがとう・・・。」

 人のよさそうな微笑みを浮かべるコトカに、ヴァレリアは思わず小瓶に入ったグレープジュースを受け取っていた。

「すごいよねー。」

「な、なにが?」

 疲れているものの、コトカの目は全く力を失っていなかった。そのことにヴァレリアは初めて気づく。

「もちろん、サーラメーヤだよ。」

「何を呑気な事いってるのさ! 私たち、逃げて帰ってきたんだよ?」

 出発した時のノリはもう鳴りを潜めている。ほとんど歯が立たなかった。あのゲーツオブハデスとかいう技の対策もとられていない。ジョニーのひらめきがどんなもので、どの程度効果があるのかもさっぱりわからないのだ。それなのに、困るどころか敵を褒める様な言葉を漏らしたコトカに、ヴァレリアは言葉を強くしていた。

「そんな、頭で考えたことが全部通用するわけないよ。冒険者ならむしろ喜ばなきゃ。」

「喜ぶ?!」

 思わず声が裏返った。今度こそコトカがどうかしてしまったのではないかと疑いたくなった。

「あの手強いのを?苦労するのをわざわざ喜ぶの?」

「く、苦労するのを喜ぶっていうと、なんだか私が変な趣味の人みたいじゃない…。」

「変な趣味じゃなければなんなのさ? コトカは怖くないの? 恐ろしくないの?」

 あまりのことに、自分の気持ちが口から飛び出した。だがコトカはそれに気づいた様子はなく、普通に問われたことに対して考え込んでいる。

「んー。そりゃ私だって怖い時は怖いよ。でもそれだけ手強いってことは、私たちがそれを討伐できればそれだけ依頼をした人の役に立つってことでしょう?」

「それはつまり、私達がこの討伐を成功させられると思っているってこと?」

「あっはは。ヴァレっこは変な事いうねー。もちろんだよっ」

 コトカは全く視線を逸らさないでそう言い切った。その目には力がある。自信ではない。たとえどれほど手強かったとしても、まぁなんとかなるんじゃないの?という意思の光だ。
小さな、本当に小さなこの愛らしいタルタルはそういって微笑む。そのまっすぐな視線は眩しくすらあった。

「あれ? ヴァレっこは自信がないの?」

「ば、ばか。そんなわけ、あるわけないじゃない! コトカが怖くないのに、私が怖いわけないじゃないか」

 不思議そうに言うコトカにヴァレリアは慌ててそう言い返していた。

「ジョニーがいて、バリさんがいて。モタさんがいて、あと姫もいて。エステルと、ヴァレっこもいる。きっと大丈夫だよ。」

 懐から可愛らしい小さな箱を取り出し、その中からバブルチョコを二つ、口に放り込むとコトカはもう一度えへへと笑った。差し出した手にはバブルチョコがもう一つ。君の分だよ、とにっこり微笑んだ。

「・・・君は、本当に感動するぐらい単純な子なのだね。」

 心底呆れかえるように言って、ヴァレリアはバブルチョコを口に入れた。にこにこと微笑むコトカの、そのまっすぐな姿勢を少しうらやましいなと感じながら。怖いと思う気持ちは変わらない。けれど、そこまで言うなら頑張ってみようとも思う。

「わかった、わかったよ。もう。 僕の負け、降参です。それじゃあ装備つけなおすから、露天酒場で待っていて。」

 空元気を振り絞って、下腹に力を込めて立ち上がる。気がつけば、後ろ向きな気持ちはとっくに落ち着いていた。

***


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